著者はトレーダーでマーケットのことがよく出てくるが、人間の認識に関するエッセイのような感じで、扱っているテーマに合った書き方なのかどうかはともかく、興味を引かれる記述が多くあった。著者の「ブラック・スワン」も近く公刊予定(Amazonで予約可能)とのことで、こちらも読んでみたい。
・ソロンの戒め「すべてが満ち足りていた人に不幸が訪れた例はたくさんあります。今、裕福であるからといって思い上がるべきではありませんし、今は裕福でも将来そうでなくなるかもしれないときに、人の裕福さを褒め称えるべきでもありません。将来のことはわかりません。本当にさまざまなことが起こり得るのです。神から一生ずっと幸せだと約束されたのでないかぎり、幸せであると言うことはできません」
・運の助けで得られたものは、運に(おうおうにして急に、そして思ってもみないときに)取り上げられてしまうことがある。その逆も同じように重要だ(むしろ大事なのはこちらのほうだとさえ言える)。運の助けを借りずに得られたものは偶然に左右されにくい。
・どんなに成功する可能性が高くても、失敗したときに失うものが大きすぎれば可能性の高さなんて関係ない。
・エルゴート性。非常に長いサンプル経路が皆お互いに似た結果に行き着くことを指す。能力は高いのに運の悪い人生を送ってきた人も、いつかは立ち直る。運がいいだけのバカは過去にいい目にあったかもしれないが、長い目で見ればそんなに運がよくないバカの人生に落ち着く。みんなそれぞれ長期的な性質に戻ってくるのだ。
・飛行機や車といった「新しい新しいもの」を見すごすことの機会費用は、そんなお宝を探し当てるためにかき分けなければいけないごみの山の毒に比べるととるに足らない。
・期間を短くとると、ポートフォリオのリターンではなくリスクを観察することになる。つまり、見えるのはほとんどばらつきばかりだ。
・市場参加者は損失の回数が少ないのを好み、利益の回数が多いのを好む。全体としてのパフォーマンスの最適化を考えるわけではない。
・黒い白鳥問題。白い白鳥を何羽見ようと、すべての白鳥は白いと推論することはできない。一方、黒い白鳥を一羽でも見かければ、その推論を棄却するのに十分である。
・統計学が何かの役に立つときは私も統計学を使う。それが危険なときは使わない。積極的な賭けをするのには統計学と帰納法を使うけれど、リスクやエクスポージャーを管理するのには使わない。間違っていたことがわかったら取引を手仕舞うのだ。そういうやり方をストップロスという。あらかじめ決めた、ここまできたら脱出するという場所であり、黒い白鳥に対する予防だ。
・生存バイアスがある場合、一番成績がよかった結果が一番目につくのだ。どうして?負け犬はのこのこ出てきたりはしないからである。
・楽観主義かどうかは成功を予測できる指標だそうだ。楽観主義ということは自信過剰だから、楽観主義の人たちのほうが大きなリスクをとりがちなのは明らかだ。そんな彼らのうち、賭けに当たった人はお金持ちの有名人になって人前に出てくる。賭けに負けたそれ以外の人は人前には現れず、分析対象から消えていく。
・直観に反する点の一つ目は、無能なマネジャーばかりの母集団でも、ほんの一部はすごいトラックレコードを出すことだ。直観に反する点の二つ目は、私たちが調べているトラックレコードの最大値の期待値は、それぞれのマネジャーのオッズよりも、むしろ当初のサンプルの大きさで決まることだ。
・人は気まぐれに参照点を決めて、そこからの差でしかものを見ない。絶対水準ではなく、決まった局所的な観点からしか物事を判断できないのだ。
・自分がどれくらい幸せだと思うかは、大域的な状態より局所的な状態の影響を強く受ける(さらに、損のほうが利益より影響が強い)。(一定水準より上では)お金持ちとか貧乏人とかいうのは、他の何かと比べないとわからない。
・情緒が一切ない人間は、もっとも単純なことさえ決められなかった。朝はベッドから起きてこられず、ああでもないこうでもないとあれこれ悩んで一日を過ごす。人は情緒がなくては意思決定ができないのである。多数の変数を操作して行う最適化の場合、私たちのように巨大な脳を使っても、非常に単純な課題でさえ解決するにはとても長い時間がかかる。
・価格の変化率が大きいときにだけ注意することだ。何かの価格が普通の日よりも大きく変化しないかぎり、それはノイズだと考える。変化率の大きさかニュースの見出しの大きさみたいな働きをする。また、価格変化の重要度は線形ではない。
・どう行動すべきかなんてみんな知っている。問題なのはどうやって実行するかで、何をすべきかではない。
・すこしだけでたらめな要素があるスケジュールだと、最適化で効率的すぎる状態に陥ることもない。とくに間違ったことで効率的すぎるのはよくない。ちょっと不確実性があればリラックスして晩ごはんを食べられるし、時間の制約もなくなる。最大化ではなく充足化で手を打たざるを得なくなるだろう。幸せの研究によると、何かを楽しもうというとき、最適な楽しみ方をしようと自分にプレッシャーをかけるとむしろ苦痛を覚えることになる。
・幸せな人たちは充足化するタイプの人たちであることが多い。自分は人生で何をしたいかを知っていて、満足したらそこで立ち止まることのできる人たちだ。彼らの目的や求めるものは経験とともに変わらない。もっと高いレベルを目指し、いつも消費生活を高めようと努め、自分の中でいたちごっこを始めてしまうことがない。つまり、欲に限りがあり、飽くことを知っている。
・最適化するタイプの人はよく引越しをしたり、数%節税するためだけに表向きの住所を変えたりするような人だ。財産があるおかげでむしろ面倒ごとが増えるのだ!
・外からのプレッシャーの奴隷にならずにすむ仕事を選ぶ自由が私にはある。そういう生き方をすると早く寝るようになり、毎晩、分単位で時間をやりくりしたり、最適化したりということがなくなる。突き詰めると、(相対的に)貧乏だけれど時間は自由か、お金持ちだけれど奴隷のように時間に縛られるかは自分で決めることなのだ。
・私たちは、目に見えるものや組み込まれたもの、個人的なもの、説明できるもの、そして手にとってさわれるものが好きだ。私たちのいいところ(美意識や倫理)も悪いところ(たまたまなのにその気になる)も、みんな、そこから湧いて出ているように思う。
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2009-05-05
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
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